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2025/05/05

無題

魚を2匹、ペットショップから買った。青いのと、黒いの。
そのまますぎるかもしれないが、“アオ”と“クロ”と名付けた。
本当は、青いのを2匹買うつもりだったが、この2匹があまりにも仲がよさそうなのを見て、飼ってみたい衝動に駆られたのだった。

家に2匹を連れ帰って一日目。
ペットショップで見たとおり、2匹の仲は睦ましかった。
常に近くにいて、向き合いながらぐるぐると泳ぎ回っていた。
最近疲れていたので、癒された気がした。
水槽が日の光を受けてキラキラと光った、反射光で部屋の中もいつもより明るい。
珍しくすがすがしい気分で、私は会社へと出かけた。

私は一人暮らしだ。広告会社で働いている。新人だということもあり、雑用や煩雑な仕事が多くひどく疲れる毎日だ。親元を離れて随分経つ、特に寂しいとは思わないが、やっぱり誰かにいてほしいと思うのが人情というものである。
家にいることがあまりないので、あまり手間のかからない魚がいいなと思った。

会社から帰り、真っ暗な部屋で水槽が街からの光を受けて揺らめいていた。
そして2匹は相変わらず仲良しであった。
ああ、やっぱり魚にして正解だったなと思った。

二日目
寝坊をした。急いで支度して、出かけた。
鍵をかける前に、ちらりと水槽に目をやると、一匹がやたらと水面近くにいるような気がして、一抹の不安が横切ったが、あまり気にとめるひまはなかった。
結局会社には遅刻した。くたくたになって、痛む頭をかかえて家に帰ると。
クロが仰向けで水面に浮いていた。
ショックと疲れで頭痛がひどくなった。まさか飼って二日目で死ぬとは思ってもみなかった。
残されたアオにたいして心の中で申し訳なく思いつつ、クロの葬式は明日の朝に回そうと思った。
明日は日曜だし、今日はあまりにも疲れた。

朝になって、なぜか6時という日曜にはあまり縁のない時間に目覚めた。
クロの葬式やらなきゃ、と思いながら、水槽を見ると、驚いたことに、そこには一匹しか魚の形をしたものがいなかった。
黒いラインの入った銀色の魚はどこにもいない。半分青色の魚が一匹、底のほうで泳いているだけだった。
まさか、と思いながらも水槽をあっちこっちから覗いても、青い魚以外何もいない。
ここはマンションの6階で、私は窓を開けていなかった。
食べてしまったのだろうか、餌はちゃんとやっていたつもりだけどな。
水槽を眺めながら、私は2度寝することに決めた。

起きたのは午後2時だった。随分と長い2度寝となってしまった。携帯を見ると、ショッピングのお誘いが来ていた。大学の友人からだったので、快くおしゃれして出かけることにした。
家に帰り、荷物を置いて、もう一匹飼うべきだろうか、と思う一方で、まあいいかとも思った。

それから、アオだけがずっと生き続けた。私は魚を増やすこともなくアオを一匹のままにしておいた。かわいそうかな、と思いながらも、なぜか魚を新しく飼う気にはなれなかった。

時間が経ち、私は結婚しようとしていた。相手は大学の先輩で、細長い人だ。
家に来たとき、魚が一匹であることをつっこまれたが、私は曖昧に笑ってめんどいから、と告げただけだった。
実際のところ、本当にめんどくさかったのかもしれない。

引っ越すことになった。
「アオ連れてってもいい?」私は聞いた。
「ああ、ただ、もっと増やそう。一匹はさびしすぎる。」
「そうだね、増やす魚はあなたが選んでいいよ。」
「そうか、じゃあ明るい色なのを選んでおくよ。」
綺麗な水槽になるだろう、と私は思った。同時にやっぱり今まで一匹にすべきじゃなかったかなと思い、アオに申し訳なくなった。

引っ越す前の夜だった。
夢の中で、魚とも人とも説明の仕様がない生き物が現れた。
鰓があって、大きな黒い目、白い髪の毛をしていて、私より身長が高くて、ドレスを着ていた。
そのドレスは青にきらめいていた、皮膚はなにやら粘膜のようなもので覆われていた。
ああ、アオだなと私は思った。
アオの後ろにすっと、黒い影が見えた。
男のようだ、白い髪に白い肌、ただ全身真っ黒は服をまとっていた。
クロだな、と私は瞬時に認識した。
「どうしたの?」気づいたら私は聞いていた。
「・・・」
「アオにクロでしょ、それよりクロ、ひさしぶりね。死なせてごめん。」
「あなたのせいじゃないわ。」アオがいった。少し高い声で、よく通る声だった。
「私が殺したのよ。」彼女は前を見据えながらいった。
「そう、でもなんで?仲よさそうだったけど。」
「彼が大好きだったからよ。」
「理由になってないわ。」
「なってるわ、大好きだから食べたくなるの。」
「魚ってゆがんでるのね。」

食べたので正解だったのか、と私は思った。

「今日はあなたにお礼を言いにきたの。」
「お礼?私はむしろ文句をいわれるのかと思った。あなたを3年ぐらい一人にさせてしまったわけだし。」
「それでよかったのよ、ほかの魚がきてたら暴れてたわ、私。」
「・・・そう。」

今まで飼ってたとはいえ、えらいものを飼ってしまったと思った。

「私が言いたいのはね、私も明日で肉体がなくなるってことなの。お世話になったわね。」
「アオも死ぬの?」
「ほかの魚が来るからいいでしょ、言ったでしょ、もうほかの魚となんて暮らせないわ、私。」
「・・・ペットショップのときはどうしてたのさ。」
「・・・こんな考えを持ったのはあなたが私たち2人だけを家につれて帰ってからだよ。2人になったのがうれしすぎてつい食べちゃった・・・。あ、でもクロは了承済みだったわ。」
「まさか、本当に?」
「まあ、アオになら食べられてもいいかなと思ってしまったんだ。」低めの鼻にかかったような声がいった。クロだ。
「で、君に感謝したいのは、僕達を2匹まとめて買ってくれたことと、あの朝僕を水槽から出さなかったこと。」
「感謝されてこんな微妙な気分になったのは初めてよ。」
「ははっ、まあそういうな。ありがとう。リサさん。」
「ありがとう。」アオも続けて言う。
「どういたしましてー。私の名前知ってたのね。」
「そりゃ、主人だしね。」
そうか、3年間一緒にいたもんな、と思いながら、いまさらながら寂しくなった。
「じゃあな、短い付き合いだったけど、旦那さんと元気で。」
「じゃねー」
「バイバイ、お幸せにー」
「あ、明日骨拾いよろしく!」
「うん。きれいな場所に埋めておくよ。」

朝目が覚めて、水槽を見たら。魚の死骸が2つ浮いていた。一匹は骨だけだった。
骨はいったまんま生きてたのか、アオ。

日当たりのよい、金木犀の木の下に埋めた。
「末永く、幸せに。」手を合わせながら、私は言った。

その後、彼が来た。
「支度はできたか。ん、アオはどうした?」
「今朝しんちゃった・・。」
「そうか、せっかく同じ種類の魚買っておいたんだけどな・・」
「ありがとう、考えてくれただけで嬉しい。あそこに墓作ったんだ。」
ベランダから金木犀の木を指す。小さな石が2個並んでるのがかろうじで見える。
「何で2個なんだ、へんな形の墓作ったな。」
「さぁ、何ででしょう。」
「なんだよ・・・」
「ふふっ」

アオがクロを愛するように、私がこの人を愛することはきっとないな、と思いながら。
彼と一緒に遅めの朝ごはんを食べた。



創作時間1時間・・・みじか・・・
私が文書を書くとなぜいつもこうゆがんでるんだ・・・

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2009/09/07 おはなし Trackback() Comment(0)

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